うつわ歳時記 これまでの表紙


師走の晴れ間



 もう十二月、寒いわけですね。華やかだった紅葉もすっかり散り果てて、冬至前の暗い日々は気分も滅入ります。そんなときは地元の伝統食で気を引き締めよう。



 と、云うわけで、おろし蕎麦と鰤の照り焼き。おろし蕎麦は福井県が発祥の地といわれますが、石川県でも勿論人気です。昔は深皿に、汁と大根おろしのぶっかけで呈せられたそうですが、今はお蕎麦屋さんによってさまざまな食べ方があります。なかには大根おろしを絞って液体だけを出し汁にいれたものとか、こったものも。 今回は昔ながらの素朴なやり方で、お蕎麦に大根おろしをかけてそれを蕎麦猪口でいただくことにしました。何かと忙しい師走のお昼は、お蕎麦ですよね。蕎麦猪口は雪だるま模様です。



  お盆の真ん中にドデンと鎮座しているのは、大根蒸しです。冬は大根のおいしい季節。風呂吹き大根に飽きたときなどいかがでしょう。大根の中をほじって適当な具財を入れ、十分ほど蒸して出来上がり。とても簡単です。大根は生でもお匙でさくさくほじれます。あまり薄くしてしまうとつめたときに底が抜けるので注意、です。ほじったものも具といっしょにいれてもよし。熱いのがうれしい一品です。赤に金彩の花模様のお碗です。手前は白梅小皿です。赤絵の紅梅小皿と対で作るんですが、紅梅の方が明るくて人気があるもので、白梅のほうだけ残ってしまうんですよね。



 お盆に入りきらなかった長ざらに鰤の照り焼き、ちょっと焦がしてしまいました。



お盆の一番向うに古九谷風色絵長皿。ロバに乗った詩人、蘇東坡図、です。東坡居士は道元禅師も「筆界の真龍」と賞賛した人物でした。彼の書は、大好きなんですが、私などにはりっぱすぎて臨書も畏れ多い感じです。体制におもねらないので、都から遠くに流されますが、南の島では「レイシを食べること日に十果,永久に島人なのもわるくない」などと詩に作って、わるびれず、楽しそうです。そんなところも敵対派には、小面憎かったのか、散々ひどい目にあいますが、その詩や言行は今に伝わっている。昔は気骨ある人物が居たものです。



蘇東坡は,貧乏生活は苦にしなかったようですが、家族と離れなければならないのは悲しんでいました。中でも弟さんを愛していたようですね。この方は、特に詩を書くでも書に堪能というでもなく、「非常に背が高かった」なんてことしか伝わっていませんが、敵対者からも慕われた、という人格者だったといいます。

 本当に悟った人物はこの世に跡を残さないといいますが、東坡居士の弟さんも、そんな人物だったのかなとおもいます。今もこの世界のどこかにそんな人が、隠れ住んでいるのでしょうか。そして誰にも知られず立ち去ってゆくのでしょうか。



木枯らしに追われていつか残されて   おるか  


 


                           2014年12月1日