うつわ歳時記 これまでの表紙


<<< ものの芽


 三月になりました。我が家の小さな庭にも残雪の下にかくれていたさまざまな草の芽が顔を出し始めました。雑草とわかってはいても、ちいさな芽はあまりにもいたいけで摘み取ってしまうのがためらわれます。ハコベがもう白い花をつけています。三つ葉もありました。ちょっと摘んで散らし寿司に混ぜましょう。



 赤絵の平鉢に黒鯛の昆布締めと新生姜の甘酢漬けなどの簡単散し寿司。この平鉢は我が家の食卓では本当に出番の多い器の一つです。山中塗りのおわんにはハマグリのお汁。雛祭ですものね。



 と、いうわけで、その向こうのお皿は銘「桃花源」と申します。大げさかな。染付けの青海波に桃の花を散らしています。オードブルにハム、モツァレラ・チーズ、アボガドの菱餅風。奥はブルーチーズとこごみの蕗の薹味噌和えです。臭いチーズとほろ苦い蕗の薹の風味は、とても良く合います。



 左側のカフェ・オ・レ・ボウルには菜の花のおひたしと加賀のすだれ麩の煮たののまぜあわせ。お麩がうまく無駄な水分を吸ってくれるので、おひたしにまぜると良い感じです。 赤絵の唐子遊び馬上盃には小女子のくぎ煮です。北陸の春って感じの雛祭気分のお昼です。昼からちょっと一杯。



 小さな猫のお雛様たちは今日は無礼講。雛壇にしゃっちょこばっているより楽しそうですね。



 華やかにお雛様を飾って、くらい冬の邪気を祓い春を待つ。素敵な習慣ですね。昔はお雛様は、人の邪気や役を担って流されたそうですね。源氏物語「須磨の巻」にも三月三日に人形を流して、その哀れさに、自身の配流の身の上を重ねるシーンがありました。



 桃も、邪気をはらうといわれる木です。「桃はよく百怪を制す。これ仙木なり」と中国の六世紀ごろの歳時記にあります。日本でもイザナギノミコトが追ってくる雷神を防いだのは桃の木の櫛でした。これも中国の影響なのでしょうね。白酒は江戸時代からの風習ですが、春の初めの草の緑をを御餅にしたり御飯に混ぜたり、さまざまに取り込んで邪気を祓う。デトックスですね。自然の摂理にかなった習慣といえるでしょう。それで邪気が祓えるものならいくらでもたべますよ。嫌なニュースばかりの昨今ですものね。


 


   ものの芽を摘んでいつしか日暮れけり   おるか  


 


2015年3月2日